今回は話題のニュースに乗ってお届けします。
薬局で働いている人にとってはなかなかセンセーショナルなニュースです。
だって、調剤薬局の仕事の半分は薬歴記入ですから!!
この薬歴を書かないで済ませたら薬剤師の仕事量は半分で済みます。残業は一切必要なくなるでしょう。
調剤薬局の薬剤師は日々薬歴と戦っているのです!!
だから、今回は敵前逃亡したわけですね!!
では、今回の調剤報酬の不正請求について見ていきます。
その前に、ちょっとだけ会計について、
薬局での会計のことを、患者さんはまとめて「お薬代」といいますが、実は、お薬自体の料金の他にさまざまなオプション料金を頂戴しています。
お薬の準備代や薬の説明代とでも思っといてくれればいい。
今回、話題に上がったのが薬剤服用歴管理指導料ってオプション料金。
このオプションは算定をするのに、いくつかの要件があって、その要件に合致しなければ算定しては行けないのです。
外部リンク:薬剤服用歴管理指導料の算定要件
このオプションは、
患者ごとに、薬歴(病院でいうとこのカルテ)を作成して患者情報の記録を毎回とることで算定できる。
ホントはオプションなんだけど、これは受け付けた処方箋ほぼ全てに対して問答無用で請求している。
医薬品を適切に使用するためにはなくてはならないシステムだからです。
請求するからには、ちゃんとやることやっとかなきゃいけないので、アンケートの内容や聞き取り内容を記録します。
たとえば、アレルギー歴、病歴、併用薬など
聞き取りによって獲られた情報を事細かに記載します。
次に、患者さんが来た時に、これをみて、この薬は以前に似たようなクスリで蕁麻疹出てるから避けたほうがいいとか、緑内障だからこのクスリは避けた方がいいとかの判断します。
アレルギー歴や副作用歴は頻繁に変わるものではないので、一度記載してしまえばそんなに大変なことはない。
これだけだとそんなに大変じゃないように思えるけど、
実は、薬歴って患者としゃべった内容も事細かく記録しているんです。
具体的には、患者さんが言ったこと、薬剤師が説明したこと、薬剤師がしてあげたことなんかを項目ごとに分けて記載します。
この項目に分けて薬歴を記載する方法をSOAP形式といいます。
S:患者が言ったこと
O:検査値などの客観的事実
A:処方内容の考察
P:薬剤師の説明
例えば「S」は、こんな感じ、
S:
「最近、食生活が乱れていて、今日病院で血圧測ってもらった60/180もあったのよ。それで血圧のクスリを始めることになってしまったんだけど、なんだか気乗りしないわ。これ飲まないと行けないのかしら?」
こんな感じに喋った内容を記録してく。患者が喋ったことなので、定型文も用意できない。
これをみて、次回に患者が来た時の対応を考えるのだ。
食生活改善したのか?とか、クスリの服用を嫌とか言ってたけど飲んでみたのか?とか、初めての薬だから副作用はでなかったのか?とか、
考えを巡らせながら、2回目の投薬に挑むわけだ。
見てわかるように超めんどくさい。これを書かなくていいなら書きたくないけど、役になっていることは確かです。
で、今回の事件は、これを17万件ほど記載しなかったのだ。
当然、薬剤服用歴管理指導料の要件を満たさない状態で算定したら不正請求になりますね。
薬剤服用歴管理指導料(手帳あり):41点
薬剤服用歴管理指導料(手帳なし):34点
お薬手帳にシールを貼ったかどうかでかわるんだけど、処方箋1枚ごとに410円か340円を返金しなければならない。
医療費って、患者負担は3割とか1割で、残りは保険者が払いますよね?
だから、返金するときはこの両方に返金しなければならない。
金額的には保険者に返金の方が大きいけど、患者に返金の方が大変ですよね。
不正があった数年ぶん遡って各々に返金しなければなりません。それに伴う信用の低下も半端にですよね。
各々に連絡して、薬歴未記入だったから返金って説明するんですよ?薬歴未記入てことは患者に対して、まったく役に立ってないってことですからね。二度と行かないと思います。
薬剤服用歴管理指導料の算定要件
薬剤服用歴管理指導料は、患者に対して、次に掲げる指導等のすべてを行った場合に処方せんの受付1回につき41点算定する。ただし、ハを除くすべての指導等を行った場合は、所定点数にかかわらず、処方せんの受付1回につき34点を算定する。
- イ 患者ごとに作成された薬剤服用歴に基づき、投薬に係る薬剤の名称、用法、用量、効能、効果、副作用及び相互作用に関する主な情報を文書又はこれに準ずるもの (以下この表において「薬剤情報提供文書」という。)により患者に提供し、薬剤の服用に関して基本的な説明を行うこと。
- ロ 処方された薬剤について、直接患者又はその家族等から服薬状況等の情報を収集して薬剤服用歴に記録し、これに基づき薬剤の服用等に関して必要な指導を行うこと。
- ハ 調剤日、投薬に係る薬剤の名称、用法、用量その他服用に際して注意すべき事項を手帳に記載すること。
- ニ 患者ごとに作成された薬剤服用歴や、患者又はその家族等からの情報により、これまでに投薬された薬剤のうち服薬していないものの有無の確認を行うこと。
- ホ 薬剤情報提供文書により、投薬に係る薬剤に対する後発医薬品に関する情報(後発医薬品の有無及び価格に関する情報を含む。)を患者に提供すること。
薬歴への記載事項
薬剤服用歴管理指導料を算定する場合は、薬剤服用歴の記録に、次の事項等を記載する。
- ア 氏名・生年月日・性別・被保険者証の記号番号・住所・必要に応じて緊急時の連絡先等の患者についての記録
- イ 処方した保険医療機関名及び保険医氏名・処方日・処方内容等の処方についての記録
- ウ 調剤日・処方内容に関する照会の要点等の調剤についての記録
- エ 患者の体質・アレルギー歴・副作用歴等の患者についての情報の記録
- オ 患者又はその家族等からの相談事項の要点
- カ 服薬状況
- キ 残薬の状況の確認
- ク 患者の服薬中の体調の変化
- ケ 併用薬等(一般用医薬品、医薬部外品及びいわゆる健康食品を含む。)の情報
- コ 合併症を含む既往歴に関する情報
- サ 他科受診の有無
- シ 副作用が疑われる症状の有無
- ス 飲食物(現に患者が服用している薬剤との相互作用が認められているものに限る。)の摂取状況等
- セ 後発医薬品の使用に関する患者の意向
- ソ 手帳による情報提供の状況
- タ 服薬指導の要点
- チ 指導した保険薬剤師の氏名
これだけ細かい内容を書かないといけないんです。お金もらっている以上はしっかりとやらないと今回のようにニュースに出てしまいます。
ちなみに、
薬歴をかかなかったら調剤報酬不正請求になってしまうのはわかりますが、
これはだれがどのように監視しているのでしょうか?
普段の監視は、個別指導というので形で厚生労働省がおこなっています。
薬局に数日前に突然連絡がきて指定した日に30人ぶんくらいの薬歴を厚生労働省の支局まで持ってこさせます。
そこで、ちゃんと書いてあるかをチェックします。ちゃんと書いてないと薬剤服用歴管理指導料を遡って返金させられてしまう。
普段から、ランダムに個別指導をすることで不正への抑止力になっているわけだ。
あと、普段からの抑止力である個別指導以外にも、明らかに不正している場合は店舗に乗り込むという荒業「監査」というのもある。
これは、抑止力というよりは制裁措置で、あたかも警察の強制捜査のごとく怒涛の攻めに合うという噂がある。そして、監査を受けると多くの場合で保険薬局の指定取消処分になるようです。
これが怖くて、みんな一生懸命書いているので、
書いていなければそれ相応の処分を受けるのは当然ですね。
ちなみに、保険薬局の指定を取り消されても薬局として営業しても構わないんだけど、いかんせん保険請求ができないから、患者さんが持ってきた処方箋をすべて自費で受けることになる。
そんなとこ、だれも行かないですよね。これすなわち廃業を意味します。