H30年の診療報酬改定の余談です。今回は、あからさまにチェーン薬局への減額がきびしいので、どれくらい厳しいのか紹介してみます。
ポイント
- 医療モールをピンポイントに狙い撃ちして減額
- 敷地内薬局は親の敵のごとく厳しく減額
- 200店舗クラスのチェーン薬局はさらに減額
- 地域支援体制加算は算定させるつもりはありませんから
こんな感じで4つのポイントで減額です。チェーン薬局のなかでも利益率がたかいとされる、医療モールと敷地内薬局が厳しく減額です。どれくらい厳しいかと簡単に解説します。
医療モールをピンポイントに狙い撃ちして減額
大手チェーン薬局からすると医療モールはまさにドル箱です。その理由は、医療モールにすると処方箋の枚数がおおくなるのはもちろん、集中率をさげることができるからです。
効率がいいので、大手薬局グループは潤沢なマネーとコネを駆使して、ビル建てて、そこにクリニックの開業を支援してドクターを誘致します。
従来の調剤報酬制度では、一つの医療機関からの処方箋の割合が高いと減額されるのですが、モールのように複数の医療機関があれば集中率が分散されるので減額されることがありません。
集中率の縛りから開放されるのが、医療モールの一番のメリットなんです。それが、今回の改定では、医療モール内のクリニックの処方箋を「すべて合算した枚数」という基準が設けられたので「集中率?モールだから関係ないし。」みたいな悠長なこと言ってられなくなりました。
それだけじゃないんです。
薬局の規模や機能に応じてとれる点数(基準調剤加算)が存在するのですが、集中率が高い薬局に該当してしまうと、その追加の点数が取れなくなってしまいます。ということで、いままで安全圏にいた医療モールの薬局は、基本料減額で、基準調剤加算がとれなくなる。
具体的な要件はこちら
調剤基本料「2」
特定の保険医療機関に係る処方箋の受付回数が月4000回以上(保険薬局と同じ建物内に複数保険医療機関がある場合は、当該保険医療機関からの処方箋を全て合算した回数とする)
もう集中率関係なくなって医療モール内にあるクリニックの処方箋が月4000枚超えると減額です。医療モールにしたら月に4000枚は超えてくるでしょう。超えてないなら逆にラッキーなのかもしれません。
具体的な数字を計算していきます。
該当することによって調剤基本料「1」から「2」になると、41点 → 25点で▲16点。これだけではありません。地域支援体制加算(旧:基準調剤加算)という加算が調剤基本料「2」では算定することができなくなってしまいます。そうすると基準調剤加算をいままで算定していた薬局は▲32点です。
基本料減額:41点 → 25点
基準調剤加算:32点 → 0点
合計で1枚あたり▲48点です。月4000枚の応需であれば、これだけで▲192万円/月です。年間▲2304万円ですから、かなり厳しい減額になることがおわかりでしょうか?
月192万円が減収となると、薬剤師を約3人減らさないと取り戻すことができません。月4000枚クラスの薬局は1日200枚くらいだから、薬剤師の雇用を考えると6~8人ってとこでしょうか?そこから3人減らしたら、あからさまにキツイというか、たぶん店舗は回らないと思います。
現行制度では、医療モールを規制した制度はなかったので「調剤基本料1」の算定ですが、改定後は、すくなくとも半数以上で「2」になってくるのではないでしょうか。医療モールなら4000枚超えますよね。
せっかくなので調剤基本料「2」はこれだけじゃないので、もうすこし見ていきます。
調剤基本料2
処方箋の受付回数が月2000回以上(集中率85%以上)
処方箋の受付回数が月4000回以上(集中率70%以上)
特定の保険医療機関の処方箋の受付回数が月4000回以上(同じ建物にある医療機関はすべて合算)
特定の保険医療機関の処方箋の受付回数が月4000回以上(特定の保険医療機関が同一のグループ薬局は合算)
一つの医療機関から枚数4000枚も対象になってしまうので、一つの医療機関から4000を超えそうな場合に門前にもう一店舗系列店舗を増やすという方法がとられることがしばしばあったのですが、それに対応した規定も新設です。せっかく店舗を分割して1号店・2号店つくったのに残念なことに合算されてしまいます。
1店舗あたりの枚数をへらす目的でなかったとしても大学病院前で1号店・2号店ある場合も「合算」されてしまいます。大学病院前なら「特定の医療機関」は大学病院で一致しますよね。おなじチェーンで「特定医療機関」がおなじなら合算です。
1号・2号店あるのはやっぱりチェーンが多いので、この部分での減算もおおきく影響するでしょう。
「処方箋の受付回数が月2000回以上(集中率85%以上)」の要件も90%だったのが85%になったので対象拡大で該当店舗が増えるでしょう。月2000枚だと
敷地内薬局は親の敵のごとく厳しく減額
病院の敷地内になるような薬局は減額です。病院の敷地内は「一等地の中の一等地」つまり特等地です。その病院から発行される処方箋をもっとも効率よく応需できるし、その病院でつかう薬だけを準備すればいいので、経営効率も非常にいい。みんなが喉から手が出るほど欲しいような条件なんだけど、そういうところって競争率がたかい。
きっと、競売に掛けて入札制です。間違いなく「家賃」は割高で、個人がでるまくはなく大手チェーンがもっていてしまうのでしょう。
で、今回からこの「敷地内薬局」にむけた特別な点数が設定されました。しかも、調剤基本料「1」~「3」ではなくって、特別にもうけられている。そのなも「特別調剤基本料」です。私はこの点数を「特別(低い)調剤基本料」と解釈しています。
特別調剤基本料:10点
具体的な要件
病院である保険医療機関と不動産取引等その他の特別な関係を有している保険薬局であって、当該病院に係る処方箋による調剤の割合が9割5分を超えること。
「10点」ですよ。やばくないですか?
「基本調剤料1」と比べると相当低い設定です。敷地内薬局を厚生労働省が目の敵にしていることがよくわかりました。せっかく高いテナント料払ってGETした最高のロケーションなのに、後出しで規制って可哀想。
敷地内薬局ってもともと集中率が高いから最初から基本調剤料1はありえないですね。おそらく初期値で「基本調剤料2」ではないでしょうか?そこから特別調剤料に転落です。そもそも「調剤基本料2」であれば「基準調剤加算」もとってないからそこまで減額にはならないか。
25点 → 10点
1枚あたり▲15点です。月3000枚だとして▲月45万円ってとこでしょう。もちろん、基準調剤加算の代替である地域支援体制加算はとれません。
敷地内薬局はもともと基本点がやすいのですが、さらにそこから減額です。
敷地内に薬局をオープンしたから儲かるという構図はもはや成り立ちません。逆に、病院との関係が密接になりめんどくさいかもしれないですね。
大手チェーン薬局を対象にさらなる減額の設定
「調剤基本料3」について言及します。グループ全体で月40000枚の処方箋を応需しているようなチェーン薬局を対象にしたものです。
調剤基本料3
(イ)同一グループの保険薬局による処方箋受付回数4万~40万回の場合(集中率85%以上):20点
(ロ)同一グループの保険薬局による処方箋受付回数40万回超の場合(集中率85%以上):15点
以前からもあった点数ですが、さらに対象拡大&減額です。これが相当きびしいので、チェーン薬局の薬剤師は自分のいる薬局の状況くらいはしっかり理解して今後の身のふりを考えたほうがいいです。
転職記事も載せときますね。
チェーンでなければ「集中率」の要件は「月2000回以上」の薬局だけなのですが、グループ全体で月4万回を超えてくると、グループに所属する全ての店舗に「集中率」の要件が発生します。しかも、グループ規模によって2段階制なのでグループ規模が月40万回を超えてくると、さらに減額です。
改定前の集中率の要件は「95%」だったのですが、改悪して「85%」に引き下げられました。この10%引き下げの影響はことのほかおおきい。
2000枚以下の小規模な薬局であったとしても病院と1:1で経営しているようなところは該当してしまいます。フランチャイズも該当するから、ロイヤリティまで払ってさらに所属することによって減額されてしまうから悲惨よね。
以前の「95%」っていう数字なら門前以外から「5%」以上集めれば回避できましたが、「85%」になってくると門前以外から「15%」以上とってこないといけない。
つまり、いままでの3倍必要になります。月1000枚応需の薬局なら月50枚で回避できたのが、150枚ないと回避できない計算になりまう。
所属するグループの規模によってもかわってきます。
月4万オーバーと40万オーバーで分岐します。これってどれくらいの規模なんでしょうか?調剤薬局を出店するなら1店舗2000枚/月くらいはほしいところだと思います。
これを基準に考えると、
グループ合計月4万枚の薬局店舗数:20店舗
グループ合計月4万枚の薬局店舗数:200店舗
ってところではないでしょうか。200店舗クラスだと「日本調剤」「アイン」「クオール」などなど東証一部上場の大企業になってきます。これらの店舗のすべてに集中率「95% → 85%」の要件がかされることになります。
もし該当店舗が基準調剤加算を算定した場合は、調剤基本料3ではそうとう努力しないと、ではずれてきます。
もしし「調剤基本料1」「基準調剤加算」を算定していたチェーン薬局が「95% → 85%」で該当するようになってしまった倍の減収を計算してみる。
基本料減額:41点 → 20点 もしくは 15点
基準調剤加算:32点 → 0点
処方箋1枚あたり▲53点 もしくは ▲58点です。笑えないですよね。
月に1000枚応需の小規模店舗でも▲月53万円 もしくは ▲58万円です。2000枚ならこの倍です。
減収をとりもどす策はあるのか?
ありますよ。それも、とっておきの策が。それは「地域支援体制加算」を算定することです。でも、これから説明していきますがハードルがめちゃくちゃ高いので覚悟しておいてください。
地域支援体制加算の要件は「調剤基本料1」と「それ以外」で全然ちがいます。「地域支援体制加算」の前身である基準調剤加算は調剤基本料1の薬局しか取れなかったのですが「地域支援体制加算」ではとれます。
というのも、改定前は「調剤基本料2」や「調剤基本料3」であっても「かかりつけ薬剤師指導料:月100件以上」で「調剤基本料1」に格上げできるというウルトラGがあったのですが、それがなくなってしまったので、かわりに設けられた救済措置です。
その要件がこちらです▼
厚生労働省:とれるもんならとってみろーーー
1年に常勤薬剤師1人当たり、以下の全ての実績を有すること。
- 夜間・休日等の対応実績 400 回
- 重複投薬・相互作用等防止加算等の実績 40 回
- 服用薬剤調整支援料の実績 1回
- 単一建物診療患者が 1 人の場合の在宅薬剤管理の実績 12 回
- 服薬情報等提供料の実績 60 回
- 麻薬指導管理加算の実績 10 回
- かかりつけ薬剤師指導料等の実績 40 回
- 外来服薬支援料の実績 12 回
この要件は、店舗に求められた要件ではなく薬剤師一人ひとりに設けられた要件です。これをクリアできれば「調剤基本料1」以外の薬局でも「地域支援体制加算」を算定できる可能性が残ってます。
では、どんなものか1つずつ見ていきましょう。
① 夜間・休日等の対応実績 400回
まさかの1人400回とすごいかずです。土曜日の13:00すぎ、もしくは平日の19:00すぎに処方箋をうけるだけなので、もし回数が足りていないようなら、営業時間を延長して処方箋がくるまでひたすら待ちましょう。
一人当たり月に33回の計算になります。休日登板がある薬局なら楽勝ですが、内容なら全員にうまく行き渡るように調節が必要です。
関連記事時間外加算と夜間休日等加算の違い
② 重複投薬・相互作用等防止加算等の実績 40回
これは楽勝ですね。残薬の調節を電話ですればいいだけなので楽勝です。サービスでとってないとこもあるから足りなくなるとしたらサービスしすぎってとこでしょう。これが回数不足というと、もはや仕事してないといっても過言ではない。
一人当たり月に1~2件です。
重複投薬・相互作用等防止加算は、通常40点で残薬調節の場合は30点です。どちらも高い点数なので積極的にとる価値は大きい。
③ 服用薬剤調整支援料の実績 1回
6種類以上の内服薬(特に規定するものを除く。)が処方されていたものについて、保険薬剤師が文書を用いて提案し、当該患者に調剤する内服薬が2種類以上減少した場合に、月1回に限り所定点数を算定する。
この加算は大変なので年に1回あればOK。1回で125点と点数も高額です。とれるならとっときたい点数ですね。
たくさん薬を飲んでる患者さんが種類を減らせるように医者に文章で情報提供して、減薬を支援したときにとれる点数です。まず医師に意見できる環境が整備されていることが絶対条件です。
クリニックとズブズブな薬局だと逆にこれは取り放題なのかもしれない。いままで医師がテキトーにだしてたビタミン剤とか切ってもらえばいいんです。
関連記事「服用薬剤調整支援料」の算定要件
④ 単一建物診療患者が 1 人の場合の在宅薬剤管理の実績 12回
一部スタッフだけでなく、全員で在宅に取り組めっとことです。1人でもいいので担当の在宅患者をもては年12回クリアできます。厳しいのが施設ダメで、個人宅じゃないとダメってとこです。
施設患者の在宅の複数処方箋を分担すればいいというのはダメなんです。
⑤ 服薬情報等提供料の実績 60回
これも大変よね。なにせどういうシチュエーションでとれるのか、よくわからない。要件はこんな感じですね。
患者若しくはその家族等、若しくは保険医療機関の求めに応じ、又は薬剤師がその必要性を認めた場合において、患者の同意を得た上で、薬剤の使用が適切に行われるよう、調剤後も患者の服用薬の情報等について把握し、患者若しくはその家族等、又は保険医療機関へ必要な情報提供、指導等を行った場合に、所定点数を算定する。なお、保険医療機関への情報提供については、服薬状況等を示す情報を文書により提供した場合に月1回に限り算定する。これらの内容等については薬剤服用歴の記録に記載すること。
「患者の同意を得た上で」とあるので事前に同意をとることが必要です。求めがあれば薬局としては情報提供するけど、それって「通常業務」の範囲内でやっているので点数をとるという発想があまりない。
もし病院のもとめに応じて情報開示したときにとれる点数であるとするなら、そんなことがスタッフ全員に起きるのであろうか。無理に実績をつくるとするなら押し付けるように情報開示していくしかないのかもしれない。
関連記事「服薬情報等提供料」の算定要件
⑥ 麻薬指導管理加算の実績 10回
麻薬の服用に関し、その服用及び保管の状況、副作用の有無等について患者に確認し、必要な薬学的管理及び指導を行ったとき算定できる加算
これは頑張ればとれる加算ですが、そもそも麻薬の調剤がないような薬局ではどう頑張ってもとれない。でも、ある程度の規模になれば麻薬の処方はとんできますよね。
勘違いされがちなのが「麻薬加算」とは別物ということです。「麻薬加算」はそもそも麻薬を調剤したら自動的に算定される点数です。向精神病薬加算や毒薬加算と同じ性質のものです。
この「麻薬指導管理加算」はそれとは別物で、しっかりと麻薬の扱いについて指導したときにのみ算定できる点数です。在宅バージョンの「麻薬指導管理加算」もあるから、在宅やってるなら比較的とりやすい点数だと思う。
麻薬の調剤がなければ「地域支援体制加算」はとれないのか?ってブーイングもでているんだけど、麻薬の処方がこない程度の規模の薬局には「地域支援体制加算」はあげさせませんよってことで、それでいいとおもう。在宅に力入れていれば麻薬の処方はいやでもついてくるでしょ。
⑦ かかりつけ薬剤師指導料等の実績 40回
かかりつけ薬剤師指導料はがんばればどうにかなります。よくわかんないままに契約をバンバンとってしまうチェーン薬局があるとかないとか、これは努力次第で、力いれていけばいくらでもとれますね。ただ、実力をともなっていないと、評判悪くなるので注意。
以前の月に100回以上が、年間で40回なのでずいぶんと緩和されていうるので容易にクリアできるでしょう。
⑧ 外来服薬支援料の実績 12回
外来服薬支援料は在宅医療をやってない人で薬がたくさんあり過ぎで自身で管理できずに困っている人を助けるための措置を評価した点数です。超簡単にいうと患者宅にある他で交付された薬を一包化することでとれる点数です。
外来服薬支援料 185点(服薬支援1回につき)
自己による服薬管理が困難な外来の患者又はその家族等の求めに応じ、当該患者が服薬中の薬剤について、当該薬剤を処方した保険医に当該薬剤の治療上の必要性及び服薬管理に係る支援の必要性を確認した上で、患者の服薬管理を支援した場合に算定する。
こんなのそんなにたくさん案件ないでしょ。全員に回る分ってある?うちは1件こころあたりある案件あるけど、算定していないです。
普通は、複数の病院にいっているなら、一緒に処方箋持ってきてくれたら、それぞれで一包化加算を算定してそれでOKなので「外来服薬支援料」なんてとらない。
これで想定できるのが、院内処方でどっさりもらってる人が、さらに他の病院で処方箋もらって薬局に場合に、院内処方の薬も一緒に一包化してくれっていわれたときにとれる点数ではないでしょうか?
けっこう限られたシチュエーションだとおもいます。
関連記事外来服薬支援料の算定要件
諦めたほうがよくない?
がんばればなんとかなるというものではなくって、案件がないとどうにもならない場合もある。外部要因に依存するので、無理ななら無理で諦めるしかない。
やっぱりこの加算ってあるていどの規模のある薬局を想定しているんだと思う。小さい薬局はそもそも役不足なんです。
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