処方箋なしで病院の薬が購入できる薬局が存在するようですが、あれはなんなのでしょうか?
以前別の記事で少し触れましたが、今回はもう少し突っ込んでみていく。
タイトルには「病院の薬」って書いたけど、処方箋でもらう薬のことを専門用語でいうと「医療用医薬品」といいます。
これと対になるのが「一般用医薬品」です。これはいわゆるドラッグストアで購入できる医薬品ですね。
今回は、ドラッグストアには売ってない「医療用医薬品」の一般人への販売ついてみていく。
実は処方せんでもらえる医薬品(医療用医薬品)には2種類あって「処方せん専用薬」と「その他」にわかれる。「その他」の方は処方せん専用ではないので、要件を満たせば処方箋なしで一般の方へ提供することができる。
詳しくはあとで書いてくけど法律だからちょっとむずかしいです。興味があれば最後まで読んで下さい。
「その他」の薬のことを正式には「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」といいます。これは普段は処方せんでだすけど、実は、個別に販売もできる医薬品です。
具体的には、
例)
あげていくと切りがないです。これらのジェネリックも「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」になりますね。
これ全部、処方箋なしで患者に販売しても構わないんですよ。
だから、もしPL顆粒とか欲しければ調剤薬局に販売をお願いしてみるといい。もしかすると販売してくれるかもしれない。
でも、ほとんどの場合は販売拒否されます。
というのも、後で見ていくけど、厚生労働省の通知で原則処方箋で渡すべきってお達しが出ているのと、めんどくさいってのと、利益が薄いってのと、病院との兼ね合いがあるってのといろいろ複雑に混ざり合ってるからだ。
ようは、売れるけど、売らないってだけのこと。
病院との兼ね合いというのは、薬局で直接薬売ったら病院に患者が来てくれなくなるから、販売しないで病院へ処方箋を発行してもらうように言います。
薬局も処方箋持ってきてもらった方が利益出るから、普通はそうしますね。
繰り返しますが、売れないんじゃなくって売らないだけです!!
もし、ロキソニン錠を2錠欲しいって言われたとしましょう。
処方せんでロキソニン錠を2錠渡したらおそらく利益は1000円くらいになります。病院も儲かるし、薬局ももうかる、損するのは患者さんですね。
だから、普通は売らない。
ちなみに、患者から販売を求められた時には、処方箋と違って「応需義務はない」。処方箋は患者の求めがあれば応需しなければならないんだけど、個別販売は別ね。
以前に、「法律では売れるんだから、売れよ!!」って言われたけど別に義務ではないんです。
あと、価格は自由に設定していいから法律どうこう言ってどうしても買いたいのなら、1錠1万円くらいで売ってもいいわけです。必要なら買えばいいだけのことですね。
もし、薬価で売ってしまったら薬局に利益はほとんどありません。だから、利益を上乗せして売ることは当然のことですね。
で、販売の時にはいくつかルールが有る。
細かいルールは後でみいくから、簡単なルールだけみていこう。
・薬剤師による対面販売が原則
・医薬品使用者本人への販売であること(家族不可)
・値段は自由価格
さて、処方せんで薬を渡すときには、薬の値段は国が決めた値段(薬価)を使用します。実はこの薬価ってのは薬局にとって利益がでるかでないかのギリギリの値段なんです。
つまり、仕入れ値=薬価と思ってくれればいい。そしたら、薬価で売ったら原価で売ったこととほぼ同じだから、全く儲かりません。
処方せん薬がを個別に販売するのは当然ボランティアじゃないので、利益がでる額を設定しますよね。
でも、あんまりにも高い金額だと、売れませんね。だから、市販薬と比較してお得感があるような金額を設定するわけだ。
例えば、OTCで売られているロキソニンSは1箱12錠入りで680円くらいです。
つまり、1錠60円程度ですね。これよりも高ければだれも買わないですよね。だから、1錠50円位なら売れるのかな?
ちなみに、医療用ロキソニン錠60mgの薬価は17.5円ね。納入価も17.5円ってことにしといて下さい。
1錠の利益
50円-17.5円 = 32.5円
利益率65%
たくさん売れるならなかなか悪くないですね。
でも、100錠とか大量に欲しい人は、高い単価で購入するよりは、病院でたくさん出してもらった方が安くなりますね。
1錠17.5円でさらに3割負担なら、100錠で500円くらいです。それプラス診察代などですね。
だから、病院でもらうときは高いのは診察代であって、薬剤代はそんなに高くないんだ。
では、細かいところをみていきますが長くなるので覚悟してくださいね。
医療用医薬品
病院が健康保険を利用して処方せんでだしてくれる薬は、どれも医療用医薬品です。この医療用医薬品は大きく分けると、2種類に分けることができる。
「処方せん医薬品」
「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」
この区分は▼こちらのサイトで簡単に調べることができる。
外部リンク:医療用医薬品の添付文書情報
赤枠で囲ったところに分類が書いてありますね。
一つの目安すとして市販薬として認められている成分はどれも「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」です。
「市販薬で販売している成分なら処方せん必要ないでしょ」ってこと。
「処方せん医薬品」は処方箋専用の薬なので処方箋以外でお渡しすることは出来ませんね。これはホント規制が厳しいから、販売無理です。
薬事法
第36条の3
①薬局開設者は、厚生労働省令で定めるところにより、薬局医薬品につき、薬剤師に販売させ、又は授与させなければならない。
②薬局開設者は、薬局医薬品を使用しようとする者以外の者に対して、正当な理由なく、薬局医薬品を販売し、又は授与してはならない。ただし、薬剤師、薬局開設者、医薬品の製造販売業者、製造業者若しくは販売業者、医師、歯科医師若しくは獣医師又は病院、診療所若しくは飼育動物診療施設の開設者(以下「薬剤師等」という。)に販売し、又は授与するときは、この限りでない。
この条文は、薬局医薬品について言及しているけど、薬局医薬品≒医療用医薬品だと考えて下さい。正確に言うと、薬局医薬品=医療用医薬品+薬局製造販売医薬品(薬局製剤)
わかりにくいけど「薬局医薬品を使用しようとする者」とは「使用者本人」を指している。
よって、本人以外には正当な理由なく売るなってこと。
逆に言うと、使用本人であれば購入できるってこと。これだけだと処方せん医薬品を含めて全ての医療用医薬品が購入できることになってしまいますね。
だから、もう一つ関係条文をみてみる。
薬事法
第49条
①薬局開設者又は医薬品の販売業者は、医師、歯科医師又は獣医師から処方箋の交付を受けた者以外の者に対して、正当な理由なく、厚生労働大臣の指定する医薬品を販売し、又は授与してはならない。ただし、薬剤師等に販売し、又は授与するときは、この限りでない。この条文で厚生労働大臣の指定する医薬品とは「処方せん医薬品」のことです。ということで、処方せん医薬品は、正当な理由がない限りは、処方せんでしか渡せないってことになります。
よって、「処方せん医薬品」は、「正当な理由」がない限り販売できない。
逆に言うと、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は販売することができるのです。
薬事法に関しては、これくらいなんだけど、もう少し細かくルールがでているのでそれも見ていく。
参照する資料は、
こちらは厚生労働省の通知を参照したいと思う。
薬局医薬品の取扱いについて(PDF)
薬食発0318第4号
平成26年3月18日
ここに「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」についての取扱いが示されている。あと「処方せん薬」についても書いてあるけど、これは販売できないから今回は省略する。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品について
なお、1.(2)に掲げる場合以外の場合であって、一般用医薬品の販売による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売を行わざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で、第3の事項を遵守するほか、販売された処方箋医薬品以外の医療用医薬品と医療機関において処方された薬剤等との相互作用・重複投薬を防止するため、患者の薬歴管理を実施するよう努めなければならない。
使用者本人への販売
1.原則
薬局医薬品については、薬剤師等が業務の用に供する目的で当該薬局医薬品を購入し、又は譲り受けようとする場合に販売する場合を除き、新法第36条の3第2項の規定に基づき、薬局医薬品を使用しようとする者以外の者に対して、正当な理由なく、販売を行ってはならない。
2.正当な理由について
新法第36 条の3第2項に規定する正当な理由とは、次に掲げる場合によるものであり、この場合においては、薬局医薬品を使用しようとする者以外の者に対して販売を行っても差し支えない。
(1)大規模災害時等において、本人が薬局又は店舗を訪れることができない場合であって、医師等の受診が困難又は医師等からの処方箋の交付が困難な場合に、現に患者の看護に当たっている者に対し、必要な薬局医薬品を販売する場合
(2)~(省略)~(13)
留意事項
1.販売数量の限定
医療用医薬品を処方箋の交付を受けている者以外の者に販売する場合には、その適正な使用のため、改正省令による改正後の薬事法施行規則第158 条の7の規定により、当該医療用医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者及び当該医療用医薬品を使用しようとする者の他の薬局開設者からの当該医療用医薬品の購入又は譲受けの状況を確認した上で、販売を行わざるを得ない必要最小限の数量に限って販売しなければならない。
2.販売記録の作成
薬局医薬品を販売した場合は、新施行規則第14 条第2項の規定により、品名、数量、販売の日時等を書面に記載し、2年間保存しなければならない。また、同条第5項の規定により、当該薬局医薬品を購入し、又は譲り受けた者の連絡先を書面に記載し、これを保存するよう努めなければならない。
3.調剤室での保管・分割
医療用医薬品については、薬局においては、原則として、医師等の処方箋に基づく調剤に用いられるものであり、通常、処方箋に基づく調剤に用いられるものとして、調剤室又は備蓄倉庫において保管しなければならない。また、処方箋の交付を受けている者以外の者への販売に当たっては、薬剤師自らにより、調剤室において必要最小限の数量を分割した上で、販売しなければならない。
4.その他
(1)広告の禁止
患者のみの判断に基づく選択がないよう、引き続き、処方箋医薬品以外の医療用医薬品を含めた全ての医療用医薬品について、一般人を対象とする広告は行ってはならない。
(2)服薬指導の実施
処方箋医薬品以外の医療用医薬品についても、消費者が与えられた情報に基づき最終的にその使用を判断する一般用医薬品とは異なり、処方箋医薬品と同様に医療において用いられることを前提としたものであるので、販売に当たっては、これを十分に考慮した服薬指導を行わなければならない。
(3)添付文書の添付等
医療用医薬品を処方箋に基づかずに3.により分割して販売を行う場合は、分割販売に当たることから、販売に当たっては、外箱の写しなど新法第50条に規定する事項を記載した文書及び同法第52条に規定する添付文書又はその写しの添付を行うなどしなければならない
解説
長いけど、ちょっとずつ見ていこう。
本人への販売
これはもう薬事法に書いてあるから絶対ですね。正当な理由がない限り本人じゃないとダメ。正当な理由は1~13まであるけど、どれもよっぽどのことじゃないと該当しない。大災害とかね。これに違反すると法律違反で罰則があります。
販売数量の限定
これは通知に書いてあるとおり薬事法施行規則に書いてある内容だからしっかり守らないとダメ。
薬事法施行規則(薬局医薬品の販売等)
一 当該薬局医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者が、当該薬局医薬品を使用しようとする者であることを確認させること。この場合において、当該薬局医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者が、当該薬局医薬品を使用しようとする者でない場合は、当該者が法第三十六条の三第二項 に規定する薬剤師等である場合を除き、同項 の正当な理由の有無を確認させること。
二 当該薬局医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者及び当該薬局医薬品を使用しようとする者の他の薬局開設者からの当該薬局医薬品の購入又は譲受けの状況を確認させること。
三 前号の規定により確認した事項を勘案し、適正な使用のために必要と認められる数量に限り、販売し、又は授与させること。
四 法第三十六条の四第一項 の規定による情報の提供及び指導を受けた者が当該情報の提供及び指導の内容を理解したこと並びに質問がないことを確認した後に、販売し、又は授与させること。
五 当該薬局医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者から相談があつた場合には、法第三十六条の四第四項 の規定による情報の提供又は指導を行つた後に、当該薬局医薬品を販売し、又は授与させること。
六 当該薬局医薬品を販売し、又は授与した薬剤師の氏名、当該薬局の名称及び当該薬局の電話番号その他連絡先を、当該薬局医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者に伝えさせること
でも、
「医療用医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者及び当該医療用医薬品を使用しようとする者の他の薬局開設者からの当該医療用医薬品の購入又は譲受けの状況を確認した上で、販売を行わざるを得ない必要最小限の数量」
書いてあることが意味不明すぎて理解できない。いつも使っている量を超過しないようにってことでいいのかな?「必要最小限の数量」が明確に定義されてないからちょっと曖昧。
広告禁止
原則、「医療用医薬品」の広告って医療関係者以外には禁止するように厚生労働省から通知が出ている。この通知にも「一般人を対象とする広告は行ってはならない。」って書いてありますね。
医薬品等適正広告基準(外部リンク:PDF)
医療用医薬品等の広告の制限
医師若しくは歯科医師が自ら使用し、又はこれらの者の処方せん若しくは指示によつて使用することを目的として供給される医薬品については、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告は行わないものとする。
でも、インターネットで調べたら、ヒルドイドソフト軟膏の写真と値段、リンデロンVG軟膏の写真と値段のってて、販売できること強調しているし、効能効果もうたってるし、あれはいいの?
と、ちょっと考えてみました。
薬事法では、医薬品の誤解を招くような広告は禁止されていますが、広告自体を禁止しているわけではありません。上記の「医薬品等適正広告基準」はあくまでも「通知」だから、厚生労働省からのお願いということで、法律ではありません。だから、法的効力はないし、条文にそんなこと書いてないでしょってことで、無視してるのかな?っと思いました。(テキトー)
一般薬での代替を考慮すること
「一般用医薬品の販売による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売を行わざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で販売」って書いてあるけど、
だったら、ヒルドイド軟膏同じ有効成分を同量含有した市販薬あるからそっちを進めればいいから売れないことになる。あと、リンデロンVG軟膏とかも同じような市販薬あるし、ロキソニン錠なんかほとんど同じものが市販薬になってるし、PL顆粒とか総合感冒薬でいい気がする。
ただ、これも「一般薬を考慮」ってのがどの程度のレベルなのかがはっきりしていない。店内にある在庫で考慮するのか、もしくは近隣のドラッグストアまで考慮するのか、世の中の市販薬全てで考慮するのかによって解釈が変わってくる。だから一番厳しく解釈すると、ほとんどの「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は零売できないと思う。
シナール錠が買えますとか広告してるけどシナール錠がやむを得ず販売が必要なケースはほとんど無いと思う。
これも上記の「広告」で説明したように、通知にしか書いてない内容で薬事法に直接明記されているわけではないので、無視してるのかな?って思った。(テキトー)
まとめ
患者がどうしても希望すれば医療用医薬品であっても販売して問題ないけど、これを業として行うのは広告とか数量とかグレーゾーンはあると思う。
医療用医薬品を販売してくれる薬局はなくはないけど、ほとんどないですね。
あと、薬剤師の対面販売は必須だから、郵便は不可ですね。薬局まで赴かなくてはならない。面倒ならやっぱり処方箋もらいにいくしかないとおもう。
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